長年一緒に会社を運営してきた、信頼している金庫番の社員が実は裏切っていて、会社のお金を不正に私的に利用していたという事例を聞いたことはないでしょうか?
これは多くの場合、会社の経営者が経理と財務を区別できていなかったことに起因しています。
以下で経理と財務の違い、そしてなぜそれらを分けないといけないかについて解説いたします。
経理と財務は似て非なるもの
管理部の中にある部署の中に、経理と財務があります。しかし、この2つはともに会社のお金を扱っていて、その所属社員は日々数字で会社の状態を表現するという共通項からか、あまり区別がついていない、もしくは同一のものと考えられていることが多いように感じます。
また、まだ規模が小さく社員数も多くはない会社の場合は、実際に経理担当と財務担当が分けられていないことが多いと思います。
経理と財務を大まかに定義すると、経理は会社のお金の動きを”記録”すること、財務は会社のお金の動きを”操作”すること、ということができます。
財務:外部からお金を調達してきたり、会社にあるお金から支払いを行う
経理:会社のお金の流れを、収益や費用などの各項目に分類し、記録する
借り入れをしたり、新株発行をしたりして資金調達をすることで会社にお金を流入させる業務や、各種の支払いをして会社からお金を流出させるという業務は財務が行い、そのお金の流れを適切に記録して、ある時点での会社の貸借対照表や損益計算書などの財務状況を把握しやすくするのが経理です。
そのため、経理と財務は本来的には行う業務は異ります。
なぜ経理と財務を分けないといけない?
会社がしないといけない支払いの金額に対して今現在、および支払時点において会社にあるお金がどのくらいあるかを把握し、足りない場合には外部からお金を調達してくるという判断を財務がする必要があるわけですが、これらの情報をまず提供できるのが経理であるため、経理と財務はたしかに密接に関わっていて、同一の担当者がこれら業務を一緒にできれば効率的に感じられます。
しかし、会社のお金の出入りとその記録を同一の担当者が行うということはリスクがあるため、避けるのが無難です。なぜなら、冒頭でお話しした金庫番に会社のお金を流用されてしまうリスクに対する予防ができないからです。
たとえば、財務担当が自分への給与支払額を実際よりも多めに設定したり、自分の隠し会社からの架空の請求に対して支払いを行っていたりしたとしても、そのお金の流れも同一人物が記録していては、その不正を誰も見つけることが出来ません。
このケースでもしも財務担当と経理担当が分けられていれば、財務担当が行った不正な支払いに対して、経理が記録する際に発見することが期待されます。支払いの基となっている給与一覧や請求書と支払額との照合を行う際に金額の不一致やおかしな会社との取引を発見することが出来るからです。仮に経理のチェックが漏れてしまう可能性があるとしても、自分が行った支払いが別の社員に見られるという業務フローの存在が、不正の発生に対する抑止力を持ちます。
なお、会社の内部統制を設計する際には、上記のような対策をとっていたとしても財務担当と経理担当が結託していれば不正の発見をすることが出来なくなってしまうという可能性についても考察しないといけません。具体的には支払いの基となる給与一覧や請求書などの書類が財務担当に行くまでにまた別の担当者(営業部長や人事部長)のチェックを経るようにするという対策が考えられますが、内部統制についての詳細な解説はまた別の稿にてさせて頂きます。